公平な選挙制度を!


by sea_of_sound_2008
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小選挙区制のあらゆる根拠は崩れた――イギリス下院総選挙と自民党の没落

 小選挙区制・二大政党制の支持者はこれまでイギリスの選挙制度をモデルとみなし、教条的にその移植を日本に計ってきた。患者の状態や拒絶反応は無視された。本当に移植手術が必要なのか、それとも他の治療法があるのではないかといったことさえ議論されなかった。しかしそのイギリスで今、下院総選挙の結果として選挙制度の改革が話題となっている。

c0187090_1421980.jpg 6日に行われたイギリス下院の総選挙では、保守党が労働党、イギリス自由民主党を抜いて第一党となったものの、獲得議席が過半数に達しない「ハング・パーラメント」の状態になった。しかしそのことだけでイギリスの選挙制度が動揺していると言うのではない。まず注目すべきなのは、得票率と議席数の乖離だ。

 自由民主党は 23% の得票率で 57 の議席しか獲得できなかったが、労働党は 29% の得票率で実に 258 の議席を獲得し、第一党となった保守党は 36.1% で 306 の議席を獲得している(過半数は 326 議席)。数パーセントの得票率の差が、数百もの議席の差となって現れる制度の不公平は明らかだ。 それこそが小選挙区制というものであり、イギリスが保守党と労働党の二大政党制であることは変わらないと言う人がいるかもしれない。しかしそれは制度の不公平に目をつぶる行為だ。選挙の結果はともあれ、少なくない支持を受けている政党が、議会において影響力を発揮できない状態であるのはやはり問題である。


 ここで小選挙区制が日本にもたらされた経緯を思い出そう。リクルート事件以来起こった金権政治への批判は、選挙制度の改革に利用されていった。金権政治への批判が「政治改革」という言葉に集約され、選挙制度を変えることこそが「政治改革」なのだと意味をねじ曲げて規定された。それにはマスメディアも荷担した。
 なぜそうまでして日本に小選挙区制が導入されたのか。いかに小選挙区制の功徳が説かれるにしろ、究極的には、それは戦後長く政権の座にあった自民党を倒すためならば手段を選ばないという考えに基づいている。そしてそれは広く承認されたものというよりも、特定の知識人や特定のジャーナリストの考え、つまりは特定のエスタブリッシュメントの考えである。

 1991年の『政治家の条件』で森嶋通夫はあけすけにもこう書いた。
 [政官財の癒着に終止符を打つには]中選挙区制をやめて小選挙区制にすることである。そうなれば弱小政党は抹殺されると恐れている人がいるが、確かにそうである。……しかし、このような抹殺は歓迎すべきことである。弱小政党が存亡の危機に晒されないから、野党が小異に固執して連合せず、自民党は強力な競争相手から挑戦を受けることがないのである。

森嶋通夫『政治家の条件―イギリス、EC、日本』 (Amazon)
 推測になるが、こうした考えを支持する人々は、1990年前後に起きた「社会主義の終焉」とされるもの、及び1994年の村山内閣発足に端を発する社会党の凋落を見て、ある種の転向を遂げたのではないだろうか。それは言うなれば、社会党(あるいは社民党)や日本共産党は潰れても良いから、なんとしてでもそれ以外で自民党に対抗できる政党を日本に作ろうとする考えのことである。

 そう考えると、社民党・共産党がまるで存在していないかのように取り扱う21世紀臨調の傲岸不遜な態度や、民主党を社会民主主義政党に見立てようとする山口二郎の奇矯な振る舞い(『政権交代論』)も理解できる。昨年の「政権交代」以前のマスメディアの民主党への肩入れもまた同様である。
 先日のエントリで触れた上杉隆もそうだが、社民党は今となっては政権与党なのだから、それは不公平であるだけでなく、現実から逸脱した独善である。


 そして、その打倒の対象であった自民党も今や弱体化の過程にある。最早日本でも小選挙区制を見直すべき時期が来ている。


 小選挙区制は中選挙区制と比べてクリーンな制度だと言われた。しかしいわゆる「政治と金」の問題が無くなっていないのは、小沢・鳩山の問題を見れば一目瞭然だ。「政治と金」の問題は選挙制度を変えることではなく、法律を整備する(企業団体献金の禁止などといった)ことで対処すべきであるし、対処できるのである。薬を処方すべき病に手術を施すのは良い医者ではない。

 小選挙区制は、2005年の自民党の大勝とその後の信託を受けていない政権に対しても、いくばくかの責任がある。小泉は覚醒剤のようなものだったと言われることがあるが、その違法な薬物の使用を可能にしたのは小選挙区制だ。二大政党制とはいっても、その時々には一大政党があるだけなのだ。


 また、誰もが環境を考慮しなければならないこの時代において、なぜ日本の国会に「緑の党」が議席を保持していないのかという問題がある。みどりの会議代表の中村敦夫は議員としてかなり奮闘していた人物だと私には思われるのだが、同会議は2004年に全ての議席を失い解散してしまった。

 断定的に言うことはできないが、「緑の党」の消失は小選挙区制が一因ではないのか。「緑の党」のような政党はその性格からして、大政党として単独政権を担うことは考えにくい。この「弱小政党」の「抹殺」が「歓迎すべきこと」だとはとても思われない。小選挙区制では多様な価値観に対応できない。


 小選挙区制を見直すとなると、また中選挙区制に戻るのか、それだけはごめんだという人が多い。しかし選択肢は中選挙区制ばかりではない。中選挙区制以外にも、比例代表制、小選挙区比例代表併用制(並立制ではない。比例代表制に近いとされる)等がある。

 先日細川護煕元首相がインタビューに答えたように、選挙制度はそのままにして小選挙区と比例区を同じ定数にする案なども考えられる。私はこの案に余り賛成ではないが、より少ない抵抗で実行できるのが利点だろう。


 なお、森嶋通夫は前掲書で、一度に完全小選挙区制を実施するのは困難であるから、徐々に完全小選挙区制に移行するという計画を述べている。おそらく民主党が掲げている比例区削減案は、このような考えに基づいている。比例区の削減はいずれは完全小選挙区制に移行する布石だと言うことだ。

 しかし小選挙区制を導入した意図が前述の通りである以上、その目論見は正当性を失っている。今となっては大政党が自党に利益を計ろうとすること以外にその目的を見出すのは難しい。民主主義の本義に反する姑息な比例区削減はきっぱりと諦めるべきだ。


 また、そうした選挙制度では連立政権になることが多く、第三党が力を持ちすぎたり、政権が不安定だとする人もいる。

 まず最初の意見について言うのならば、それは今回のイギリスに顕著なように、そもそも小選挙区制が得票率と獲得議席の乖離した不公平な制度だと言うことを忘れた言い分である。現在の制度では、勝者、特に第一党が過剰に力を持ち過ぎているし、敗者は影響力が無さ過ぎるのだ。これは日本のように地域と支持政党が必ずしも対応していない国において著しい結果をもたらす。

 次に連立政権の運営についても、連立政権を組む前に充分議論し、その過程を人々に公開するならば混乱は避けられる。異なるイデオロギーの政党が連立を組む場合に、何を目的にし、何を目的としないかをはっきりさせれば、政党与党の支持者もその他の有権者も納得するだろう。

 その場合、連立政権に何を望むか世論調査をしたり、公開討論会を開催したりして、どのような形で連立を組み、どのような政策を実行するのがふさわしいか議論することなどが考えられる。比例代表制その他の選挙制度に問題点がないとは言わない。しかし、それは克服可能な困難ではないだろうか。

 実はこのことは山口二郎さえ渋々ながら語っている。ほんの僅かの記述ながら前述の『政権交代論』には、比例代表制を採用するとしても、運用面でのルールである「憲政の常道」を確立するならば、その困難を乗り越えることができるだろうと読める箇所があるのだ。


 「政権交代」論者の中には、小選挙区制を改めると再び自民党に力を与えることになるという人もいるかもしれない。元々選挙制度はそのような観点から語られるべきではないのだが、そういう人には1993年の細川内閣の成立が中選挙区制の元で起こったという事実を指摘しておきたい。選挙制度が何であれ、国民から支持されない政党は下野せざるを得ない。

 昨年の民主党の勝利を「憲政史上初の政権交代」と呼びたがる人には受け入れがたいかもしれないが、これは選挙制度より支持率の方がものを言う証拠である。常識的に考えても、有権者が動かないのなら制度を変えてしまえというのはひどい思いつきではないだろうか。まして自民党が没落しつつある今となっては、この論にしがみつく訳にはいかない。


 イギリスをモデルとみなすのならば、その政治に変化が起きようとしている時、日本もまた変化を目指さなければならない。イギリス自由民主党は他党との連立の条件として、比例代表制の検討を持ちかけている。これまで「イギリス病」に罹っていた知識人やマスメディアが、こうしたイギリスにおける議論を無視するならば、それは一貫しない不誠実な態度である。

 既に新聞社の社説には、この先のイギリスの帰趨を見定めた上で小選挙区制に対する態度を決めようとする日和見がありありと見て取れる。しかしこの先のイギリスの動向が不明であっても、既に小選挙区制の不公平さは示されているのだ。

 小選挙区制のあらゆる根拠は崩れた。言い訳はごめんだ。




*なお、現在では「みどりの未来」が「みどりの会議」「緑のテーブル」の後継的存在であるらしいので、公式サイトを掲げておく。みどりの未来公式サイト(http://www.greens.gr.jp/)。
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by sea_of_sound_2008 | 2010-05-09 13:59 | 政治